最高裁判所第一小法廷 昭和39年(オ)1172号 判決 1967年2月09日
上告人
林春雄
右訴訟代理人
江谷英男
被上告人
北但金融有限会社
右代表者
西村好男
右訴訟代理人
山崎孝治
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人江谷英男の上告理由(一)および(二)の第一点について。
所論の点に関する原判決の事実認定はその挙示の証拠関係に照らし、これを肯認することができ、原審の右認定したところによれば、上告人は訴外大成武代に対し自己の氏名および商号である双葉自動車修理工場こと林春雄名義の使用を黙示的に承認していたものであり、上告人は営業の廃止を一般に知らせる方法をとることもなく、知れた得意先等に対してもその旨を周知徹底させなかつたというのであるから、上告人は、自己の営業を廃止したにせよ同訴外人のした取引行為について上告人をその営業者であると誤認した被上告人に対し、商法二三条の規定にもとづく責任を免れ得ないこと明らかである。したがって、右と同趣旨に出た原審の判断は正当であり、論旨はいずれも採用できない。
同(二)の第二点について。
商法二三条は名板借人と取引行為をした第三者が名板貸人を営業主と誤認した場合において、右第三者をして右名板貸人に対し右取引の責任を追及することをえせしめ、右第三者の利益を保護するために設けられた規定であるから、右認定のごとく上告人が訴外大成武代の行為について商法二三条の責任を負うべき以上上告人は、同訴外人ずが上告人の意思にとづかずして上告人、名義をもつて振り出した本件手形につき善意の第三者である被上告人に対しその支払の責に任ずべきものと解するのが相当であり、これと同旨である原審の判断は正当である。したがつて、所論は、失当として排斥を免れない。
同(二)の第三点について。
原判決が、その挙示の証拠により適法に認定した事実関係のもとでは、被上告人が上告人の営業と誤認することについて重大な過失があるものといえないとした原判決の判断は、正当というべきである。
原判決には、所論のような違法があるとはいいがたく、所論は、結局、原審の専権に属する証拠の取捨選択、事実の認定を非難するに帰し、採用しがたい。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(岩田誠 入江俊郎 長部謹吾 松田二郎)